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寝煙草の危険 [本]

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だいぶ前から図書館で予約していた本、マリアーナ・エンリケスの「寝煙草の危険」。
年末年始にゆっくり読めるなと思ってたんですが、短編集だから、ほんの2~3編のつもりが結局全部読んでしまった。

今年でた本としては、一部で話題・評価の高かった作品ですが、その評判どおり面白かった。〈アルゼンチンのホラー・プリンセス〉のプリンセスとも呼ばれてるので、ホラーなんて映画でさえほとんど見ないのに、恐る恐るといった感じでしたが、ホラーといっても文学的ホラーというか、アルゼンチンの民話的なものを軍事政権時代の記憶とないまぜに昇華した作品集といった趣。

訳者解説で言及されていた映画「瞳は静かに」「アルゼンチン1985」もみたくなつた。
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ハンチバック [本]

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めずらしく芥川賞作品を読む。
市川沙央著「ハンチバック」。

受賞時から言及されていた「私は紙の本を憎んでいた」「読書のマチズモを憎んでいた」というのが、気にかかってたんですよね。本屋に行き、好きに本を選び、好きな格好でページをめくって読む。

音楽ファンとしては、やっぱりCDがないととか、レコードはやっぱり音が違うなとか、音楽を聴くことのマチズモってのもあるのかなと。まぁ音楽はすでにデジタル化が進み、クリックひとつで聴けるようにはなっていますけど。でも世の中には耳が聞こえない人というのが一定数いるわけで、そういう人達に音楽はどんな意味を持つんだろうとは時々考えます。

後半の展開など、さすが芥川賞作品だけはあるなと100頁に満たない作品ながら、刺さる作品であったのは確か。次作が楽しみです。
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フロスト警部シリーズについて [本]

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今日は今年読んだ本で一番ハマったフロスト警部シリーズについて。
R.D ウィングフィールドという作家のミステリーで、その筋では結構有名なシリーズ作品みたいなんですが、夏ごろに知って、滅法面白くていやぁハマりましたね。

主人公のフロスト警部がもう魅力的で、しょうもないギャグやセクハラまがいのダジャレ満載。だらしくなくツキまかせでカンで行動する割にはあまり当たらず、それでいてしつこい仕事中毒。だけれど熱い正義感を持ち、ヘロヘロになりながら、事件を解決していく。こんな魅力的な主人公はなかなかいない。イギリスらしい皮肉っぽいユーモアがまたいいんですよね。

読みながら思わず声を出して笑ってしまう本なんてざらにあるもんじゃない。
全部で6作かな。どれもかなりのページ数で、後半3作くらいは前後編1000頁近い大作ですが、面白すぎて頁を繰る手が止まらない。
残念ながら作者はもう亡くなってしまっているので、最後の「フロスト始末」は正月休みにとっておいたのに、結局我慢できずに読んでしまった。これからこのシリーズを読む人がうらやましい。

年末年始の休暇にどうぞ。激おすすめしたい。
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掬えば手には [本]

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瀬尾まいこの本は2-3冊くらい読んだことあったかな。
新作「掬えば手には」は一番この作家の良さが表れた作品じゃなないだろうか。

人の心を読めるという特殊能力を持った大学生梨木君は、まったく心が読めない開かないバイト先の同僚常盤さんと出会う。でも彼女からはなぜか彼女とは違う人の声が聞こえてくる・・・という物語。
バイト先のオムライス屋さんの店長大竹さんのキャラが良いんですよ。主人公とのやり取りにニヤニヤしてしまう。

読み終わった後、清々しく心がほんわかします。
この本の初回限定冊子に掲載された後日譚「アフターデイ」も良し。おすすめです。
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はぐれ鴉 [本]

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最近読んだ「はぐれ鴉」(赤神 諒 著)が面白かった。
時代小説としては、ひさしぶりにページをめくる手が止まらないって感じでしたね。

ミステリー仕立てなので、詳しくは記しませんが、読み終わった後に、舞台となった大分県竹田市をちょっと調べてみたらちゃんと史実に想を得ていて、へぇ―そんなことがあったんだと勉強になりました。

小説ながら、タイトルにあるはぐれ鴉は心中に思い馳せてしまう魅力的な登場人物でしたし、伏線回収もしっかりしていてエンターテインメント作品として良く出来た作品でおすすめです。
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ケルト人の夢 [本]

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マリオ・バルガス・リョサの2010年作「ケルト人の夢」を読みました。邦訳出版は昨年。
図書館で予約してから半年くらい待たされている間、この人の作品を一度も読んだことなかったので、「楽園への道」と「密林の語り部」を読みました。両方ともとっても面白かったので、より一層この本への期待が高まってたんです。

実在したアイルランド人、ロジャー・ケイスメントの物語。
外交官としてコンゴ、ペルーにわたり、そこにヨーロッパ人が存在する意味は、近代化への道を拓く助けとなるためなどでなく、虐待と残虐行為を伴う強欲によってアフリカから搾取するためであることを目の当たりに知る。
その経験から自身の故国アイルランドもイギリスの植民地であると強く意識し、独立闘争に身を投じていく。同性愛者でもあったことにもよる孤独感を抱えながら、一途に虐げられた人々のために奔走する。
人道主義・愛国主義に没入していき、それだけでは何の解決にもならないことを知りながら、その中にしか自らの人生を見いだすことが出来ないケイスメント。
最後は武装蜂起を止めるために帰国するが、反逆罪で絞首刑になる。

500ページを超える大部の小説でしたが、四日で読み終えてしまった。素晴しい作品でした。
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どうしてこうなっちゃったか [本]

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最近読んだ本の話でも。
藤倉大著「どうしてこうなっちゃったか」。
今最も世界で演奏される現代音楽作曲家として、僕が知ってるくらいだからそれなりに有名だと思うんですけど、彼の自伝みたいなものですかね。これがめちゃくちゃ面白いんですよ。

15歳で音楽の勉強のために英国に渡り、大学~大学院~博士課程、その間に作曲家コンクールに応募し、優勝したりしなかったり。その過程で起こる個性豊かな師や友との出会い、生活の中でのすったもんだが捧腹絶倒の面白さ。大阪出身だからなのか肩ひじ張らないユーモアに富んだ語り口の文章が上手いんでですよね。巨匠ピエール・ブーレーズとの邂逅、坂本龍一、デヴィッド・シルヴィアンとの交流など、そっち方面のファンは必読でしょうね。

現代音楽事情というのも良くわかります。
自身の曲が世界中で演奏されるようになっても、月々の家賃を払うこともままならないというのには、ちょっとびっくりしましたが。まぁ確かに現代音楽なんて、ロクに聴かれないジャンルだし。お金にはならないですもんね。有名音楽祭から招かれた時はホテルや旅費も問題ないけど、そうじゃないと主催者の友達の友達の家に泊まるとか笑えます。

学校で教えたり、商業的なところで仕事をすればもっと儲かるんでしょうけど、でも音楽にかける情熱だけで、突き進んでいき同じ志を持った人達と繋がっていくその姿は胸熱くさせるものがあります。
現代音楽に興味のない人にもおすすめの面白本です。
それとまずは音楽も聴いてみないとな。
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六つの村を越えて髭をなびかせる者 [本]

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最近読んだ本の話でも。
西條 奈加 の新作「六つの村を越えて髭をなびかせる者」。タイトルが良いんだよな。
江戸時代中期に合計九度も蝦夷地にわたり、アイヌ人と交流した最上徳内の半生を描いた作品です。

最上徳内の名前はどっかで聞いたかな?という程度だったので、いまだ茫漠たる原野だった北海道の命がけの測量調査やロシアの脅威など、勉強にもなりました。

何より夷人と恐れられ、当時の松前藩により虐げられていたアイヌ人との出会い、アイヌ語を学び心を通わせていく過程、政変により全てが水泡に帰してもなお、アイヌの人達のために生きていこうとする徳内の姿にワクワク・ドキドキ胸を打たれましたよ。
そうだケビン・コスナー監督・主演の映画「ダンス・ウィズ・ウルブズ」を思い出しました。

昨年の直木賞受賞作「心淋し川」は、ごく普通の人情ものの時代小説でしたが、重厚勝つ軽やかな本作の方が直木賞に相応しいと思う傑作。おすすめです。
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とにもかくにもごはん [本]

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最近読んだ本の話でも。
小野寺史宜という初めて読む作家の「とにもかくにもごはん」。
ここ10年くらいで、見かけるようになった子供食堂。うちの近くにもあります。
家庭の事情でちゃんと食事がとれない子供たちに、栄養あるご飯を提供しようというボランティアによる食堂ですね。

その子供食堂を舞台にした物語。
章ごとにそこに集う、ボランティアや子供たちを主人公に展開する。
一応一晩の開店から閉店を時系列に描いている。
ボランティアの学生は就職活動のための参加だったり、子供たちはそれぞれ父子家庭や母親が夜の仕事だったりと様々。ちょっとしたやさしさと善意が心にやさしく触れる。

最後で最初の物語の伏線が回収されて、思わず「上手い!」と感心。
コロナ禍と寒さ厳しくなる中、静かに胸が温もる佳作です。
ほっこりしたい方はどうぞ。
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ディスクガイドに非ず~音楽航海日誌 [本]

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うわぁこれはすごい本です。
愛読ブログ「After you」の2009~2019年までを纏めた、荻原和也さんの「音楽航海日誌」が出ました。フル・カラーで全656頁というヴォリューム、中身も前代未聞、世界的にも類例のない名著の誕生です。

編集者とどのような話し合いがあったかわかりませんが、単なるディスクガイドなら、そして採算なども考えれば、もっと軽微な体裁ででもよかったでしょう。でもそうじゃない、この10年の記録として残したいという著者の想いもあったからこその、重厚ともいえるこの装丁なんじゃないかと推察します。

そもそもこれは、ただのディスクガイドではありません。
僕が思い出したのはファーブル昆虫記。そうまるで図鑑の様です。
人一倍音楽が好きな個人が記した音楽観察記。知らない音楽を追い求め、世界中好奇心の赴くまま。もともと日々のブログだから、季節の移ろいやこの10年間の世の徒然が垣間見えることころが、数多のガイド本とは一線を画しています。
ただのディスクガイドならその音楽をコレクションに加えたら、聴いたら、用なしになってしまうかもしれない。だってガイドなんだから。ガイドが必要なくなれば本も必要じゃなくなる。でもこの本は違う。ファーブル昆虫記同様、読み物として価値ある本なんです。

それにしても危険な本だな。
大きく重たい本ではあっても、もともとはブログ記事、適当にページを繰ってみれば、気安い文章に時間を忘れて読み耽ってしまう。「ひゃっほーい」「あぁぁぁぁ、きもちえぇぇぇ」とか、聴いて感激している著者の息遣いが、こんなに感じられる本は他にありません。
それに折々挟まれるとことん個人的な体験に根差したエピソードがまた楽しい。仕事でナイジェリアを訪れた際の、タクシー車内でかかるエベネザー・オベイにあわせてワン・コーラス歌った時の話や、ベトナム旅行でカイルオンなどのCDを大量に買い込み、帰りの手荷物検査で引っかかり、税関員にあきれられたとか、思わず笑ってしまう。
また「レコード・コレクションで大切なことは、何を持っているかじゃなく、何を持たないか」はじめ、文章の端々からコレクターとして、聴き手としての矜持が滲むところもまたこの本の魅力です。

ブログで読んでるはずなんですけど、やっぱりこうして本になっているというのは、そこにある、手に取る、なんとなくページを開く、そこからポツポツと読み始める。本ってそういうものですよね。
ピーター・バラカンさんとのカタカナ表記についての対談やアフリカの楽器や世界各地の民芸品、著者の訪れた旅先の写真やら盛りだくさん。

著者はダウンロードもストリーミングもしないということですが、この本はストリーミング時代だからこそ、より有効な本かもしれません。
動物や諸般物事なら写真や文章で事足りるでしょうが、音楽は聴けないことには始まらない。レコードやCDの時代なら、探すにしたって欧米の音楽ならまだしも、アフリカ、南米、東南アジアなどの大手のショップで流通していない音楽は聴きたいと思ってもそう簡単に聴けないですもんね。こんな本があっても身悶えするしかありません。もちろんその労苦を払って著者は聴いてきたわけですけど。

でも今なら、この本に載っている音楽の多くはストリーミングやYoutubeを介して、聴きたいと思ったらすぐに聴ける。世界中の音楽が気軽に聴けるようになった時代だからこそ、マニアじゃない多くの人が楽しめる本でもあります。

自分で書いたわけでもないのに、外国の人に、どうだ!日本にはこんなすごい本があるぞ!と自慢したくなる宝物のような本です。そこには同じ一人の音楽好きとして、こんな素敵な本をものにした著者への羨望も多少はある気がします。

気軽なブログとして始めたものなのに、遂にはこれだけの「作品」となり、一番驚いているのは著者自身かもしれません。
気が早いですが、10年後のVol.2にも期待しましょう。
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