愛の不思議に惑う [ギリシャ]
ストリーミングで聴けず、日本からはダウンロード購入もできない2月にリリースされたヨルゴス・ダラーラスの新作「Erotas I Tipota」がようやく到着。
ストリーミングで聴ければCDはまぁそのうちとも思えるんだけど、Youtubeで聴けるとはいえ、ちょっとめんどくさいものね。これで心置きなく聴けます。
ここしばらくは長年在籍したミノスを離れてジャズ×レンベーティカなアルバムをだしたり、気の向くままな活動でしたが、本作はミノスに復帰しての王道のライカ。
このタイトルは英語だと「Love or Nothing」ってことらしい。全曲同じ作曲家による作品。
前作は重厚で苦み走った歌声が印象的な作品だった。気がする。そんなに回数聴いてないけど。背負った荷の重さがその歌声を通して伝わるような。そんな感じだった。
翻って本作に浮かび上がるのは、年を重ねても未だ愛の不思議に惑う一人の男。愛に纏わる喜びや悲しみや苦みが歌声にべったりと塗りこめられている。なんかサザン・ソウルとか聴いてるのと同じような気分になるな。
ブズーキやバグラマーによる王道ライカ・アンサンブルも常より冴え冴えと響き、潮風に曝された屈託に満ちた歌が10曲。ダラーラス以外が歌う1曲あり。
どこか浮世離れした世界へ誘う油絵ジャケも良し。
いつもどおりたっぷりと歌を堪能できる、聴きごたえありまくりの傑作です。
夜空にまっすぐ伸びる歌声 [ギリシャ]
買ったばかりなのにベスト選出したギリシャの歌手エレフセリア・アルバニタキの93年のライブ盤。HPを見るとタイトルは英語だと「The night is descending 」という意味らしい。
冒頭ホーン入りのジャジーな曲で始まり、思わずビッグ・バンド好きなので膝を乗り出す。そんな曲で始まるとは思わなかったので意表をつかれた。
そもそも僕が持っている彼女のアルバムは96年の「Tragoudia Gia Tous Mines」だけ。あのアルバムはアコースティックなライカだったから。そんな感じなのかと思ってた。
このアルバムは23曲も入ってて、時間は1時間弱なんだけど、短めの曲がいっぱい。冒頭はサックスやエレキ・ギターがソロをとるコンテンポラリーな曲が続くが、そのあとにアコースティックなレンベーティカ~フォーキーな曲も交えて、どの曲も一つ一つの音が生き生きとしていて、何より曇りなくまっすぐ夜空にのびるような歌声に聴いてるこちらの胸も冴え冴えとしてくる。ちょうど30代半ばだろうか。歌手として脂がのってきた頃なんだろう。とにかく歌に自然と耳が惹きつけられる。男性ゲストとのデュエットやバック・バンドをフィーチャーしたインスト曲もある。
終盤のクラリネットも印象的なトラッド曲から、ギターのイントロで鮮やかに切り替わる代表曲「Dynata」(確かアテネ・オリンピックの時も閉会式かなんかで歌ってた)の高揚感は格別。そしてアンコールの「Tis kalinichtas ta filia」の確信に満ちた歌声には思わず目頭が熱くなってしまう。所々で聴ける観客の大合唱も気分を盛り上げる。名ライブ盤だと断言します!
降り積もる雪を眺めながら [ギリシャ]
心に深く打ち込まれる楔 [ギリシャ]
今年最後のエル・スールで購入したCDは素敵なクリスマス・プレゼントだ。
ハリス・アレクシウの新作は彼女の歌い手としての業を感じさせてくれるような重厚な作品になった。
先日マノス・ロイーゾスの作品集と書きましたが嘘です。ごめんなさい。
マノリス・ラゾウリスという人の詞を歌った作品集で、マノス・ロイーゾスとも多くの歌を残している人でした。本作では作曲は5人くらいの人が手がけてます。
正調ライカもあれば90年代の代表作「祈りをこめて」のようなスケール感のある曲やフォーク・ロック調の曲もある。
http://www.youtube.com/watch?v=HjJBZ1XdW5c
今年リリースされたディミトリ・ガラーニとのライブ作は、ちょっと試聴してどうも声が荒れてるような気がしたのとそのせいでグッと聴き手を引き寄せるコブシが感じられなかったのでパスしてしまった。(MMのベスト10に入ってるし、ちゃんと聴いてみないとな)
でもこの新作ではまったく衰えなど感じさせない歌に圧倒される。
思い出したのはアマリア・ロドリゲスの「コン・ケ・ヴォス」。
ダラーラスとは違い彼女の声のハリや伸びなどは本作を聴く限りでは衰えたとはいわないまでも、やはり若い頃とは違う。
アマリアが「コン・ケ・ヴォス」を発表したのは54歳のときだから、現在のハリスよりもう少し若い。でも両者とも歌い手としての衰えも自覚しながら、いつか朽ち果てていくであろう自身をも歌に刻み付けるような歌唱に慄然とさせられる。その厳しさが聴き手の心に深く楔を打ち込む。
こんな歌を聴くととても勇気づけられる。
今年は歌を中心に音楽を聴こうと年頭に書いたけれど、そんな一年をしめくくるにふさわしい歌の数々。
長く厳しい冬にじっと耳を傾けるにふさわしい歌だ。
聴き手の深い場所に届く歌 [ギリシャ]
先日購入したダラーラスの若き日のCD二枚をよく聴いてる。
二枚とも正調ライカという作品だけれど、まず現在の声とまったく同じなのに驚く。
普通はデビュー作ならではの初々しさとかあるもんだけど、この人は最初から完成した歌手だったんだな。
もっと驚くべきことは60歳を過ぎた今もデビュー時と声のハリも伸びも微塵も変わっていないことなのかもしれない。
右は先日二枚目と書いたけど、71年発表の三枚目でした。
アポストロス・カルダーラスという作詞家?の曲を歌った作品のよう。ギリシャではこういうの多いみたいですね。一曲本人とデュエットしてます。
二枚とも聴くほどに味わい深い。聴き手の深い場所にきっちり届く歌といおうか。
次は80年代あたりの作品を聴いてみたいな。
ギリシャ×バルカン・ハイブリッド [ギリシャ]
ダラーラスとブレコヴィッチのコラボ盤。
思った以上にハイテク・サウンドなんだな。
ハイテクというのはピーター・ガブリエルを思い出すような音像だから。
一曲目のイントロのダラーラスの歌に重なるレゲエ的なニュアンスのキーボード、ドラムのハイハットの刻みはマヌ・カチェみたい。
二曲目はダフマン・エル・ハラッシの「ヤー・ラッヤー」だ。
なんでダラーラスがこの曲歌うんだ?ギリシャでも有名なのか。よくわからん。
三曲目は子供のラップが入る。誰だこのガキは。
総じて演出・脚本はブレコヴィッチで、ダラーラスが主演した作品。
ギリシャ音楽というよりワールド・ミュージック。
ブレコヴィッチはギリシャ人じゃないんだから当然か。
ブレコヴィッチの才気煥発ぶりが堪能できるギリシャ×バルカン・ハイブリッド・ミュージック。
でも個人的な好みとはちとずれるなぁ。
バルカン・ブラスとかなんかせわしなくてあんまり好きじゃない。
もっと聴き込めば印象は変わるかもしれないけど。
自らと繋がる源泉を探して [ギリシャ]
今年リリースされたギリシャ歌謡の中では評価の高いマリア・アナマテルー。
今年はもうダメかと思ったけど、なんとか入手できました。
youtubeで数曲聴いていたけど、予想以上に素晴らしい。
87年生まれの24歳。エルスールのレビューによれば「エーゲ海の島々、あるいはアルメニアやセルビアなどを旅し聞き集めた唄、音楽的インスピレーションから成るアルバム」とのこと。
年齢のせいかなんとなく学生の卒業制作/卒業論文みたいなイメージが浮かぶ。それは自らと繋がる音楽的源泉(ルーツ)を探して旅しその一応の成果をまとめた、みたいに聴こえるから。
今年はブルースをはじめアメリカン・ミュージックへの興味も再燃して数か月前にライ・クーダーの聴いたことのなかった「流れ者の物語」を中古で買ってよく聴いていた。ルーツ・ミュージックを自ら学びながら奏で歌う初期のライ・クーダーのスタンスになんとなく似た志向にも思える。
弦楽器中心のギリシャ・トラッド・サウンドが繊細で美しく、トータル・アルバムとしての完成度も高い。
正直に言えば、僕にはハリス・アレクシウは重厚すぎ、エレフセリア・アルバニタキは怜悧さが時に冷ややかに感じられる時がある。
このマリア・アナマテルーはまだ若いせいもあり、重厚すぎずまた知性が勝ちすぎることもなく、聴き終わった後に彼女の歌を聴いたという印象と共に見知らぬ土地を旅した時の風の匂いがそこにあるように感じられる。
少しかすれた歌声に漂う寂寥感は旅行鞄を手に一人駅に佇む人のよう。
今後きっとより大きな成果を聴かせてくれるはず、と期待を抱かせるに足る才媛の見事なデビュー作。
今年中に聴けてよかった。
謎めくアラビック・ギリシャ歌謡 [ギリシャ]
日曜日は3ヶ月ぶりにエル・スールに行った。
ひさしぶりにギリシャものでもと思っていたんだけど、あいにくお目当てのCDはどれも品切れ。
かわりに何枚かあったハリス・アレクシウの旧作リマスターから一枚。
ジャケを眺めながらどれにしようか考えあぐねて、店長に「どれがいいですかねぇ?」と聴くと愛聴盤だという81年作「Ta Tragoudia Tis Gis Mou」を勧めてくれた。
90年代以前のハリスは中村とうようさんが選曲した「ベスト」しか聴いたことないが、この盤からは一曲も選ばれていなかった。ライカなのかなと思って聴いてみると、電気楽器はまったく使われていなくて、かなり民族音楽色が強く、レンベーティカというよりももっとアラブ的というか、ほとんどの曲でアラビック(バルカン的?)なメロディーを吹くクラリネットが印象的。彼女のディスコグラフィーの中でもかなり異色作なんじゃないだろうか。他を聴いたこともないのに言うのもなんですが。
彼女のHPを見ると本作の英題は「Traditional Songs」。
実際ほとんどの曲がトラディショナル。
でも、ほんっとどの曲もアラビックな感じなんだよなぁ。
レンベーティカってこんなアラビックだったっけ。
ブックレットは完全にギリシャ語だけなので一曲一曲歌詞なのか解説なのかがついてるんだけど読めん。
3分前後の曲がほとんどながら、最後だけ6分の大作、この曲なんかウム・クルスームを思いだしちゃう感じなんですけど。ほんと謎だ。
彼女は現在と比べても声が全く変わりませんね。
50年生まれだからこの時31才。臭みの効いたバックの演奏にも遜色ない濃厚なこぶしを聴かせてくれる。
でも、もっさりと重たくならないから何度でもくりかえし聴ける。
歌唱ももちろんだけれど、バックの演奏も含めて個人的には新鮮な謎だらけでかなり聴きごたえあり。
これから時間をかけて本作の謎を解いていこう。
ギリシャ音楽のルーツを見つめなおす視線 [ギリシャ]
ヨルゴス・ダラーラス72年作「MIKRA ASIA(小アジア) 」。
長いこと聴きたいと思っていたのをようやく入手。
ほんの30数分ですが、評判どおりほんとに素晴らしい。
ジャケット写真を含めギリシャ音楽のルーツを見つめなおしたここでのダラーラスの視点や作品のたたずまいが僕にはなぜかザ・バンドの2ndを思い出させる。
なんか自分の歌い演奏する音楽は大きな物語の一部なんだみたいな姿勢に感動する。
ギリシャ音楽に詳しくないのでここでの試みがアレンジなど演奏方法も含め、当時として珍しかったのか、何か時代的にそういう流れ(バック・トゥ・ルーツ的な)があったのかわからないけれど、ここで歌われる歌が彼が常に帰る場所としてあるのだろうとは感じられる。
全曲、アポーストロス・カルダーラス作曲、ピサゴーラス作詞。
ブックレットには歌詞の英訳もあり、冒頭曲の気高い精神性には胸打たれる。
ダラーラスは49年生まれだからこの時、まだ23歳。
歌は既に十分完成されてる。この人は声もまったく変わってませんね。
ハリス・アレクシーウのデビュー録音でもあり、初々しい歌声が聴ける。
たった30分程とは思えない大河のような作品。
蒼ざめた12ヶ月の歌 [ギリシャ]
ギリシャの歌手エレフセリア・アルバニタキ、96年のアルバム「Tragoudia Gia Tous Mines 」、英題は「Songs for the Months」。
彼女を知ったのは2008年に出た新作でだけど、ネットであれこれ視聴したあげく、一番気に入ったこれを買った。
全15曲だが3曲はインタールード的なインストでタイトル通り12ヶ月分の歌が12曲。
ジャケットからイメージされる蒼ざめたほの暗いアコースティックな伴奏に乗ってエレフセリアの透明感のある歌声が気分を落ち着かせてくれる。
装丁がスケッチブック風で凝っていて、中のページには歌詞と絵が添えられている。
CDの盤面には星座図が。
持ってるだけでうれしくなるCDだ。