SSブログ

挨拶代わりの1曲目:Jack Shit George [Mr LOVE PANTS] [イアン・デューリー]

さてさて前置きが長すぎましたが、アルバム「Mr LOVE PANTS」の中身について書いていきましょう。
本作は前回書いた通り、チャズ・ジャンケルがバンドに復帰したってことで、ほとんどの曲をチャズとデューリーのコンビで書いています。

ご存知ない方のために言っておくと、デューリーは歌詞しか書きません。その時々で曲を書いてくれるパートナーがいます。でもこれは後々僕自身も認識したことなんですが、デューリーは歌詞しか書かないといっても、音楽的に何もしてないってことではないんですよね。音楽的なイニシアチブもかなりとっています。それはデューリーが亡くなって、ブロックヘッズが単独で活動するようになって、わかったことです。そのことについてはまたいずれ書くことにしましょう。

このアルバムの曲は10曲中7曲がデューリー/ジャンケルのコンビで書かれています。他は1曲をキーボードのミッキー・ギャラガーと、2曲をリズ・ジョーンズとのコンビで書かれています。
で、今日はまず一曲目の「Jack Shit George」について。
この曲はリズ・ジョーンズとの曲で、この人は本作には参加してませんが、デューリーとは84年の「4,000 Weeks Holiday」からの付き合いです。

スネアのタンッ!の音に弾かれるように流れ出すイントロのファンキーなリズムはヒット曲「Hit Me with Your Rhythm Stick」を彷彿とさせるもので、これだけでおぉ!ひさしぶりのアルバムは気合が入ってるぜ!と思わずにいられないものでした。

なにしろ前作「Bus Drivers Prayer & Other Stories」はくすんだ色調の渋いアルバムでしたからねぇ。ファンとしてはひさしぶりに出してくれただけでうれしくて、前作みたいな渋い枯れた感じでも全然問題なかったんですが。

このイントロだけでおぉぉ!となりましたよ。
そのファンキーなイントロに続いて現れるデューリーのヴォーカルはもうなんといっていいか歌というより浪曲師か講談師のような名調子。後にも先にもこんな風に歌う人はいませんからね。レゲエのトースティングとポエトリー・リーディングとラップが渾然一体となったようなまさに名調子です。

シャープなドラムにうねるベースライン、左右のアクセントを異にしたギターなどチャズのアレンジの筆が冴えわたっています。ブリッジの後の短い間奏のアイデアや最後のサビの後の短いベース・ソロ、そして最後にデイヴィ・ペインのサックスが登場と、もう完璧です。

この曲はバックとの掛け合いがまたユーモラスで面白いんですよ。
歌詞なんて普段は気にしませんけど、

今日、学校で何を習った?
 ジャックのクソだ
先生が目を離したすきにか
 そういうこと
とても興味をそそられたことはある?
 ぜんぜんない
退屈は 精神的な疲労の兆候か?
 そんなでもない
クラスのトップに立ったことは?
 一度もない
ケツ蹴られてほっぽりだされた後は?
 うすらバカになるだけ
うまいことやっていく見込みは?
 もう小さいのなんの
で終わりのベルが鳴ったら?
 クソ食らえ

とまぁこんな感じでファンキーで楽しいってだけじゃなくて、こういうユーモアにあふれてるところが何より魅力的なんですよ。
でもそうやって笑わせといて、サビでは鋭く切れ込んできます。

他人の美しさなど 我慢できない
 優雅なんざ マネできない
他人の謎など 盗めない
 他人の場所には 居すわれない
他人の務めなど やれっこないし
他人の歴史の中に
 特別な場所など とれっこない
奴らの歴史が
 跡も残さず消えちまったときには

デューリーの歌詞には「市井の知」といったものを感じるんですよね。文学的な気取りのない、日々の生活の中で培われてきた文学性というか。韻を踏みまくって言葉遊びみたいなとこも、意味が分からないくても響きだけ聴いてても面白いですよね。
後半のブリッジではこんな風に歌われます。

世間様から見れば 俺は二流の人間
これは 俺が自分でぜひ知っておくべきこと
不平不満を言うなんざ 俺の務めじゃないけれど
でも 幸せか俺? いやぜんぜん
若いときにチャンスを逃して
今は はしごの下にも届かない
俺がこの世に生まれてきたのは 自分の居場所を見つけるため
神さま 俺を成金にでもしてくれよ

子供の頃に小児麻痺を患い半身不随になり、これまでの偏見や苦難をファンキーなリズムに乗せてグルーヴィに笑い飛ばす。そんな姿勢に僕はいつも励まされるんですよ。いやそれが歌詞じゃなくて音楽全体から迸ってるんですよね。

一曲だけでこんなに長くなってしまった。言いたいこといっぱいあるんでね。
歌詞対訳は邦盤(訳:丹 美継)から引用しました。

nice!(0)  コメント(0)