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相反する二つの世界 [R&B/JAZZ/etc]

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コロナの影響でリリースが延期されていた、マリア・シュナイダー・オーケストラの新作「DATA LORDS」が、ようやくリリースされました。
いつも通りアーティスト・シェアからの所謂クラウドファウンディングでの制作で、ちょっと迷ったけどCDをオーダー。送料が結構かかるので、ダウンロードの倍くらいの値段になっちゃうんですけどね。ブックレットのアートワークも手をかけた豪華なものなので。まだCDは届いてません。

でもCD購入するとダウンロードもできちゃうんで、早速ダウンロードして聴いてます。
ちなみにダウンロード版にも電子ブックレットがついてます。

以前インタビューで彼女は、「デヴィッド・ボウイと共演したことで変わった。ダークな作品に惹かれるようになった」というようなことを言ってたましたが、前作と比べても明らかに変化した作品になりました。

直訳すると「情報の支配者たち」というタイトルによる2枚組の大作。
1枚目が「The Digital World」、2枚目が「Our Natural World」という副題がついてます。相反する二つの世界で揺れ動く人間をテーマにしたようです。
2枚目は前作「Thompson Fields」の同様、これまでの自然の豊かさを描いたような作品と通じる作風ですが、問題は1枚目ですね。
2枚目が美しい風景画とするなら、こっちは荒涼たるデジタル世界を描いたというよりは、その世界と対峙する人間というか。そういった世界に対する明確なオピニオンといった感じです。

アルバムの一曲目とは思えない陰鬱で不穏な空気を放つ冒頭「A WORLD LOST」はが、アルバム前半を象徴してます。
何拍子なんだかわからない変拍子に同じフレーズを繰り返すピアノ、そこに無調感を孕んだギターがあてもなく漂っていく。それがサックス受け継がれ、荒涼たる世界が露わになる。
2曲目の「Don't Be Evil」なんてダークな色彩感が、師であるギル・エヴァンス的の遺伝子を強く感じさせます。2曲ともエフェクトの効いたギターが印象的です。

1枚目ラストのアルバム・タイトル曲「DATA LORDS」はパワフルなグルーヴの中で、エフェクトをかけたトランペットが電子信号のように鳴り響く。この曲をはじめ新しく加わったジョナサン・ブレイクのドラムが演奏にダイナミックさを加味していますね。

2枚目はこれまでの作品の延長線上にある作風ですね。
「STONE SONG」のスポンテイニアスに変化するリズムとハーモニーが楽しいし、「Look Up」もポジティブな光に溢れていて気分を明るくしてくれる。
2枚組という大作ながら微塵も冗長さや弛緩とも無縁なのは、綿密なリハーサルとプレイヤーとの相互理解による賜物でしょう。

ふと思ったのはデジタルな世界と自然世界とは相反するものなんでしょうか。僕にもよくわかりませんが、このアルバムを聴くと少なくとも彼女は相反するものとして捉えているようです。
デジタルな世界を描いた1枚目は陰鬱で歪で不協和な音楽で、2枚目はとても美しい音楽で満たされていて、ある種とっても分かりやすいステレオタイプな捉え方ともいえます。自然だって美しいだけじゃない。地震、台風と自然災害が常に身近にある国に暮らしている身としては、正直そういう世界の捉え方はちょっと古いんじゃないかとも思ったんですが。

それはともかく音楽自体は非常にチャレンジングで、これまでの殻を破ろうというパワーを感じるし、異色作でありながら彼女のキャリアの中でターニング・ポイントとなる聴きごたえたっぷりの力作ではあります。特に1枚目に強く惹かれますね。
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