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自分の文化を生きるか殺すか [ポップ/ロック]

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「音楽航海日誌」をパラパラ眺めていると、この人は最近どうしてるかな?と思ってサブスクで検索したりするってことありますよね。
ルイジアナのケイジャン、ジョーダン・ティボドーの、「La prière(祈り)」と題された新作もそうして発見しました。これがまた前作をはるかに凌駕する強力盤。
「俺はハリケーンの中で生まれた!」剥き出しのシャウトに始まる一曲目「Né dans un ouragan」で度肝を抜かれました。

前作も粗削りで無垢なケイジャン・ミュージックを体現した作品でしたが、本作はもう前作でさえ大人しかったと感じるほどの激情迸る音に圧倒されます。前作では伝統を次の世代へ伝えていこうという初々しい情熱が音にも表れていましたが、ここではその想いは変わらずとも、そこから一歩踏み出し、今自分が奏でる音こそが伝統であり、ティボドーいうところのルイジアナ・フレンチ・ミュージックは今ここにある自分達の生活や喜怒哀楽を伝えるリアルな音楽なんだと宣言してるかのようです。

激情的な一曲目からメドレーの様に繋がる「Blues de bon rien」はプロデューサーも務めるギターのジョエル・サヴォイのトワンギーなギターが艶めかしいケイジャン・ブルース。
3曲目でようやく登場する軽快なロッキン・ケイジャン「P´US PERSONNE」。ブルース・ブギー「One-step de Rôdailleur」、荒々しいダンス・ミュージック「Cypress island stomp」、前作以上に多彩な曲が揃っていますが、様々なスタイルを試す中では、その演奏法は違う、伝統的じゃないだのという言葉もあったようです。

でも過去のスタンダードなレパートリーを演奏するのでなく、自分の感じたことを音にすることこそが、伝統を継いでいくことになるのだという確信と覚悟がすべての音から感じられます。ここ数年のうちに書いた40曲ほどもある中から選ばれたという10曲は、自分がどこから来たのか知っているから、この音楽と共に未来へ向かっていけるのだという自信が漲っています。

ジャケに写っているのはティボドーの曾祖母だそうで、裏ジャケには同年代の古い家族写真に「自分の文化を生きるか殺すか」の文字が添えられている。本作を聴けば、その曾祖母の時代から受け継がれた自分達の文化を捨てずに受け継いでいきたいという想いが全ての音から伝わってくる。

アルバムはルイジアナ、サイプレス・アイランドの地中深くから鳴り響いてくるようなフィドルのドローンの中、チャントのようなメロディを歌うティボドーの歌声が娘たちのコーラスに引き継がれて幕を閉じる。ケイジャン音楽の脈動をありありと伝える傑作です。
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