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言葉にならないメロウを湛えた声 [ポップ/ロック]

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多くの人の仕事納めは先週の金曜までだったんでしょうか。今日は朝の電車も街も閑散としていて、普段の月曜とは違う緊張感のない師走の街並みはいつもとは違う感慨を抱かせます。

具島直子という人を僕が認識したのは2ndアルバム「Quiet Emotion」(1997)でだったろうか。当時ちょっと試聴していいなと思ったけど購入にはいたらずも、ずっと頭の片隅にその名前は残っていた。ブックオフに行くとたまに探したりしたんだけど、一度も見かけたことない。

先日「メロウな夜」で彼女の「12月の街」が流れてすっかり魅せられてしまった。その曲が収録されているアルバムを遅ればせながら中古で購入。
99年発表の3rdアルバム「mellow medicine」。

彼女はよく古内東子を引き合いに出して語られるけど、確かに古内東子に通じる音楽性ではある。でも古内東子にあるベタな歌謡性はほとんどない。それに聴き手が自信を投影できるような歌詞の物語性も希薄。J-POPというのは基本的に歌詞オリエンテッドの世界ですからね。そんな諸々が彼女がメジャーになれなかった理由だったのかもしれない。でもそれは彼女が古内東子より劣っているということではもちろんない。

このCDが届く前にアップル・ミュージックで1st「miss.G」(1996)と2nd「Quiet Emotion」(1997)も聴いた。どちらも完成度の高いAOR風味のシティ・ポップス。
そして三枚目の本作からは、より一層磨きこまれた歌・アレンジ・演奏が三位一体となった音楽が流れてくる。沼澤尚(ds)、岡沢章(b)、中西康晴(pf)、伊丹雅博(g)ら手練の演奏陣を見れば音は推して知れる。

彼女の声は20代後半の女性の成熟するにはまだ早い、青い不安定さを残しているが、その若干の不安定さがここでは魅力になっている。音程が不安定とかいうんじゃなくて、愛や未来への不安を湛えているというんですかね。手練の演奏をバックにそれを我がものとするというより、薄いバリヤーを張るようにその音の中に寄る辺なく佇む声。
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インストの「Dear My D.J.」で始まり、短いエピローグのような「good night」で閉めるあたり、トータル・アルバムのような整合感。どの曲も過不足ないどころか辛口すぎるくらいストイックな音作りがなされていて、まさに僕好みです。
大切なものを失ったその悲しみよりも空虚な諦観を感じさせるミディアム「mssing you」。シンプルな繰り返しがブラック・ミュージックのエッセンスを感じさせる「Angel」。ホーン入りのアップ・ナンバーながら刹那的な響きをもった声が映える「光と影」。そしてやはり「♫愛してる人のもとへ急ぐ人達♫」で溢れる冬の情景を描く「12月の街」のメロウはやはり格別。「mellow medicine」はタイトル通りメロウ・グルーヴが麻薬のようにジワジワと心と身体を揺らす。

このアルバムで描かれるのはありふれた恋愛模様でもなく、とりとめのない心象風景でもない。言葉にならないメロウ。音楽でしか紡ぐことのできないメロウである。音の隙間に濃密に感じられる何か。それこそこのアルバムの耳を傾けるべきメロウなのかもしれない。
これからは12月になればこのアルバムに耳を傾けるにことになるのだろう。
遅ればせながら掛け値なしの名盤と言っておきましょう。

名曲と呼ぶに異存なし。

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