そして父になる

申し分のない学歴や仕事、良き家庭を、自分の力で勝ち取ってきた良多。順風満帆な人生を歩んできたが、ある日、6年間大切に育ててきた息子が病院内で他人の子どもと取り違えられていたことが判明する。血縁か、これまで過ごしてきた時間かという葛藤の中で、それぞれの家族が苦悩し……。

是枝裕和監督「そして父になる」。
カンヌで審査員特別賞を受賞したり、福山雅治主演ということで、いつも地味な扱いの是枝作品としてはかなり話題になり、集客もいいようで嬉しい。
前作「奇跡」が素晴らしかったので本作も楽しみにしていた。

社会的エリートである主人公良多、そのエリートであるがゆえのダメさ、身勝手さ、全てを論理的に結論づけようとするが、その論理から零れ落ちるものを見つめながら父になっていく主人公を、福山雅治がぎこちなくも誠実に演じていたのが印象的だった。

共演者もリリー・フランキー始めみんなよかったけど、特に良多の継母を演じた風吹ジュンがよかった。
物語の終盤、心通じ合うことを拒否してきた自分の態度を悔い、継母に電話を掛けるシーン。良多の想いを軽くいなすように笑ってうけとめる、声だけの演技だけど上手い！と思った。

逆に是枝作品の常連で、本作でも良多の義母を演じた樹木希林は、上手いけどすっかり型が出来上がった技を見せられてるみたいで興を削がれた。いっつも同じなんだもん。
あとあいかわらず子役に自然に演技させるのがこの監督はうまいね。

それと特筆すべきは写真家としても活動する瀧本幹也による映像。空間感覚やコントラストなどどのカットも美しく見ているだけで目の保養になる作品だった。通奏低音のようにバッハの音楽が使われていたのも印象的でした。
良作。おすすめします。