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失われゆくアメリカへの鎮魂歌 [ポップ/ロック]

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ザ・モンロー・ブラザーズの「What Would You Give In Exchange For Your Soul?」という彼らの30年代の録音を集めたアルバムにはボブ・ディランのこんなコメントが寄せられている。

『僕は最近のどのレコードよりもビルとチャーリー・モンローを聴く。それこそ僕にとってアメリカそのものだから』

主にフランク・シナトラが歌ったポピュラー・ソングを歌い綴ったボブの新作「Shadows In The Night」にも同じことが言えるだろう。ボブの最近の曲「Moonlight 」や「Life Is Hard」などは古いポピュラー・ソングのような風情があったので、こんなアルバムがリリースされても別に驚きはしない。
最近は先日取り上げたフレッド・アステアを聴いたり、そこでも触れた「イージー・トゥ・リメンバー アメリカン・ポピュラー・ソングの黄金時代」という本を読んでいることもあって、このアルバムにもすんなり馴染めた。

アーヴィング・バーリン「What'll I Do」を始め1920~50年代のアメリカン・ポピュラー・ソングの黄金時代に作られた曲ばかり。シナトラが歌ったといっても、別に彼がオリジナルの曲ばかりじゃなく、ロジャース&ハマースタインの「Some Enchanted Evening」はミュージカルの曲だし、「枯葉」はもともとシャンソンだ。

第一次世界大戦後、禁酒法、大恐慌の時代を経て、第二次世界大戦があり、そんな時代にアメリカではロバート・ジョンソンやモンロー・ブラザーズのような音楽が片方にあり、もう片方には希望の国アメリカを体現する本作のような音楽があった。
それは両極端にある音楽かもしれないが、両方共アメリカ的なるものだろう。都会と田舎、富と貧困、優美と野卑、様々な相反するものが一緒くたにされている国アメリカ。そしてそれは今も変わらない。

本来ストリングスを配するところはドニー・ヘロンのスティール・ギターで補い、レギュラー・バンドに曲によっては少しの管楽器を加えた簡素な演奏をバックに、今はもう失われてしまったアメリカ的なるものを慈しむように、ここでのボブの歌はやさしく、時にあのダミ声も艶やかに映える。
彼は自分自身もそんな失われゆくアメリカの一部だと言いたいのだろうか。そして失われてしまったとしても、最後の「That Lucky Old Sun」に歌われるように太陽はただ天を廻っている。ここで歌われる歌はどの曲もそんな失われゆくアメリカへの鎮魂歌のように聴こえてしかたない。
冬の長い夜にそんな失われたアメリカ、アメリカが最もアメリカらしかった時代に想いを馳せてみてもいいかもしれない。
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