バンドネオンが演出する「濃淡」 [ポップ/ロック]
古びてはいるが、歴史を感じさせるホール。磨き上げられた床の上を滑るように流れていくバンドネオンと弦の響き。情熱的に舞うダンサーたちのステップにそれを眺める人達の気楽なおしゃべり。
6月にリリースされた大貫妙子と小松亮太の共演作「tint」は典雅な趣と人いきれが交錯するアルバムだ。
6月のリリース時から興味をもっていたのだけど、先日、試聴音源を新調したコンポで聴いてみたら、あんまり素晴らしく鳴るので、すぐにアマゾンでポチってしまいました。今月はもう予算オーバーなんだけど、年末だしねと自分に言い訳をして。
タイトルは「濃淡・色合い」という意味だそう。
色彩感鮮やかというよりはモノクロームのブックレットのイメージもあり、微妙な濃淡を味わうような演奏。その多くを担うのが小松亮太のバンドネオンなわけだが、こちらがタンゴに不案内なせいか、とりたててどこがタンゴ的とも感じさせない。
「Hiver」という曲が好きだ。オリジナルは「One Fine Day」(2005])収録。アコースティック編成で演奏した「ブックルドレイユ」での演奏もよかったけど、ここでの演奏もまた違った味わいがある。
街のカフェのウィンドウ越しにぼんやり師走の街を眺めている。両手で包んだコーヒーカップから温もりがじんわり伝わる。そんな歌。
大貫作品の間に挟まれるインストのタンゴ曲も場面転換というよりも舞踏会を遠目に俯瞰するように響いてくる。
同じくアコースティック編成で自曲を再演した「ブックルドレイユ」と比ても、同じ歌でも表情が違う。いつも感じる凛とした静けさよりも、暖かくふくよかに聴こえるのは、歌が伴奏に対峙するのでなく、伴奏を纏うように揺れているからだろうか。そうリズム楽器がないせいか伴奏に身をゆだねて揺られているような歌が印象的。テンポがひとつの曲の中で伸び縮みする。
全10曲45分というのも聴きやすいし、バンドネオン、弦、ピアノの音が麗しく鳴る録音も素晴らしい。安物とはいえコンポが威力を発揮してるのかな。新調して良かった。
冬に購入したから冬にいつも耳を傾けるアルバムになってしまうかもしれない。それもちょっと嬉しい。
2015-12-25 22:27
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コメント(2)
季節に見合った入手タイミングですね。この録音、音響いいですよね。
僕も「Hiver」は好きです。何バージョンかあるけど、彼女は歌いこむほど良くなるタイプですね。逆にいやらしくなってしまうタイプもいますから。
別記事の件になりますが、かなり久々にミュージックマガジンを発売日に買ったんですよ。ちゃんと読んでないけどベスト10ではヴァンくらいかな、被ったの。今年発売分の縛りって、ユーザーにはあまり意味ないんじゃないか、って思えてきました。
by シャケ (2015-12-26 21:25)
シャケさん
グッときた時が買い時ってことで。
>彼女は歌いこむほど良くなるタイプですね。
歌い込んでも、新たな伴奏を得て新しい歌として歌える人のような気がします。再演にありがちなルーティーン感というか慣れがないというか。
MMのベストまだ見てないんですが、ヴァンが選ばれてるんですか。ちょっと以外。雑誌的には1年という縛りがまぁ必要なんでしょうね。メディアのベスト10は総論的になりがちですから、今年の「傾向を知る」みたいな感じにしかならない気がしますね。
by Astral (2015-12-26 21:58)