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日々の暮らしの中の民の謠 [日本]

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こんなCDが99年にリリースされていたとは知りませんでした。
「現地録音による『椎葉の民謡』」。
民謡にも以前から興味はあったんですけど、なかなかCDとしては興味を引かれるものがなかったんですよね。プロの民謡歌手による歌はそれはそれで見事なもんなんでしょうけど、取り付く島がないというのが本音でした。こっちの興味の問題かもしれませんけど。

椎葉というのは宮崎県臼杵郡椎葉村のことで、解説によれば山奥深い山村だそうです。Googleの地図で見てもほんと山奥ですね。
本作に収められているのはその椎葉村に暮らすお年寄りの方々がその地域に伝わる民謡を歌ったものです。録音はスタジオなどではなく椎葉村に録音機材をもって出向き、歌い手の方の自宅や公民館、小学校などで録音されてます。途中で雨が降ってきて雷の音が入ってたりして、所謂フィールド録音と言っていいもの。

CD2枚を「春の歌」「夏の歌」「秋の歌」「冬の歌」「季節に関係のない仕事歌」「季節に関係のない信仰、儀礼の歌」という6つのカテゴリーに分けて62曲収録されてる。62曲も民謡を聴けるかなぁと思って聴き始めたけれど、そんな不安は杞憂に終わりました。CD2枚一気に聴ききってしまった。

数曲太鼓が入る以外は無伴奏で歌われる。日々の暮らしの中で歌われてきたであろう歌たちが、飾り気など微塵もない清廉ともいうべき歌声で歌い綴られていく。歌の背後に名も無き民の声が聴こえてくる。どの歌い手さんもまたいい声してるんですよ。歌自慢の近所のおじいちゃん、おばあちゃん(おじさん、おばさん?)なんでしょう。
こういう民謡を聴くとき、僕は結局、声や節回し、コブシなんかを楽しんでいるのだろうけど、そういう聴き方でいいのかな?とちょっと思ったりする。例えば古いゴスペルやカントリー・ブルース、ナイジェリアのサカラとかと同じような感覚で聴いてるようなところがある。
日本語で歌われているとは言え、方言だし、ことばが引き伸ばされて「おぉ~~でぇ~~~~さぁ~~~~」なんて感じでうたわれるので聴きながら意味を捉えることなんてできないしね。
でもやっぱり日本人ですから、外国の曲を聴くのとは違う感覚ももちろんある。

子供の頃、父の田舎であれはなんだったんだろう?確か電話から地域の公民館みたいなところから流れてくる民謡が聴こえてきたんだけど、かけ流していると、そういうのを思い出したり、となりの軒先でじいさんが歌うのが風に流されて聴こえてくる、そんな風情もあります。

一人で歌われる歌もあれば、お囃子のある複数で歌う歌もある。「茶摘み節」「苗取り節」など日々の労働をこなしながら歌われてきたであろう歌には自然な快活さがあり、歌自体から季節の空気が流れてくる。
多くの歌が、1~2分だけれど、CD2枚目の終盤10分におよぶ「馬子歌」というのが収められています。結婚式に歌われる歌で、花嫁行列の折に馬を引いていったことから「馬子歌」。花嫁行列が畑が両側に広がる道をゆっくり進んでいく様が目に浮かぶ。民謡に対する感想としてどうかと思うけど、ゆったりとしたグルーヴが窺える良~い歌で聴いててなんとも気持ちよくなってしまう。そして最後、短い「法事の歌」で静かに幕を閉じる。アルバムとしての構成も素晴らしい。

とりとめない感想になってしまった。

リリースは99年だけれど、録音は平成6年とあるから20年前。ここでの歌い手さんの多くは既に故人かもしれない。そう思えば以降もこれらの民謡が次の世代に受け継がれているといいのだけれど。
小島美子氏による解説も椎葉の文化や芸能に関する記述など、特に椎葉の民謡のリズムが山村特有のリズム感であるなど興味深く読みました。神楽もぜひとも見てみたいものです。それと録音の良さも特筆すべき。こういう作品をちゃんと残すなんて日本の音楽業界も捨てたもんじゃないと思いましたね。
日本の文化遺産と呼ぶべき名盤です。
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コメント 2

Azadi

『椎葉の民謡』、聴いてみたいですね。
叔父によると、椎葉村は五木村よりも僻地らしいですよ。人吉のスーパーに椎葉村の祭りのポスターが貼ってありましたね。

by Azadi (2017-06-03 09:59) 

Astral

Azadiさん

地図で見ても山ばっかりのところでほんと僻地みたいですね。そういうところだからこそ伝統が残っているのかもしれません。お祭りとか楽しそうですよね。
by Astral (2017-06-03 11:16) 

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